型彫放電加工の原理と用途・メリット・デメリットを解説

  • 投稿日:2024年1月31日(水曜日)
型彫放電加工の原理と用途・メリット・デメリットを解説

放電加工は、大きく型彫放電加工とワイヤーカットの2種類があります。
この記事では、その中でも型彫放電加工について、原理や仕組み、メリットやデメリットを解説します。
また、あわせてワイヤーカットとの違いについても触れます。

型彫放電加工とは

型彫放電加工とは、金属やセラミックスなどの導電性のある材料に、電極と呼ばれる金型を近づけて高電圧をかけることで、放電現象を利用して微細な加工を行う技術です。
複雑な形状や高硬度の材料にも対応できるため、自動車や航空機の部品、医療器具、金型などの製造に広く用いられています。

特徴としては、切削力がほとんどかからないため、材料の変形やひずみが少なく、精度の高い加工が可能であることがあげられます。
また、放電エネルギーを調整することで、表面の粗さや残留応力を制御することもできます。

しかし、放電によって材料の表面に微細なクラックや欠陥が発生する可能性もあり、これにより強度や耐食性を低下させる恐れもあります。
また、放電に伴って発生する熱によって材料の組成や組織が変化することもあるので、適切な放電条件の選択や後処理が重要となります。

型彫放電加工の原理・仕組み

型彫放電加工の原理は、電極の形状をワークに転写する、というものです。

電極は銅やグラファイトなどの導電性の高い素材で、まずはこれをあらかじめ彫りたい形状に加工します。
そしてワークを油や水などの絶縁性のある加工液に沈め、先ほどの電極とワークの間にパルス電流を流して放電させます。
この放電によって発生する高温でワークが溶融し、加工液の気化爆発で溶解金属が除去される、という仕組みになります。

上記のサイクルを繰り返すことで、電極が反転された3次元形状をワークに加工します。

型彫放電加工のメリット・デメリット

すでに触れているように、型彫放電加工にはさまざまなメリット・デメリットがあります。
ここでは型彫放電加工のメリット・デメリットをまとめました。

型彫放電加工のメリット

型彫放電加工のメリットとしては、以下のようなことがあげられます。
 

  • 導電性のある材料なら加工が可能
  • 高精度の加工が可能
  • 複雑な形状の加工が可能
  • 加工機が故障する可能性が低い

 

導電性のある材料なら加工が可能

型彫放電加工は、導電性のある材料なら厚みや硬度に関係なく加工が可能です。
そのため金属だけでなく、セラミックスやカーボンなどの非金属も加工できます。
また、熱伝導率にも関係なく、同じ条件で加工できます。
 

高精度での加工が可能

型彫放電加工は、電流と電圧によって加工を行います。
そしてこのとき、電極とワークの間には微小な隙間があり、物理的な接触がありません。
そのため、摩耗や変形が少なく、高精度での加工が可能です。
また、放電エネルギーを調整することで、表面の粗さや残留応力を制御することもできます。
 

複雑な形状の加工が可能

型彫放電加工の原理は、電極の形状をワークに転写する、というものです。
つまり、電極の形状次第で、ワークをさまざまな形状に加工することができます。
そのため、曲面や凹凸、穴や溝などの複雑な形状の加工も可能です。
 

加工機が故障する可能性が低い

型彫放電加工では、ワークとの物理的な接触がありません。
そのため、物理的な接触のある旋盤やマシニングなどと比較すると、加工機が故障する可能性は低いとされています。
ちなみに、ワークも油や水に沈められるので、熱で変形するといった心配もありません。

型彫放電加工のデメリット

型彫放電加工のデメリットとしては、以下のようなことがあげられます。
 

  • 導電性のない材料は加工できない
  • 加工にかかる時間が長い
  • ワークの形状に合わせた電極が必要
  • 加工機が高額

 

導電性のない材料は加工できない

型彫放電加工は、導電性のある材料に対してしか用いることはできません。
そのため、プラスチックやガラスなどの導電性のない材料は加工できません。
 

加工にかかる時間が長い

型彫放電加工は、1回の放電で削れる量が微量です。
具体的には数mm/分程度のため、場合によっては数日かかるといったこともあります。
そのため、加工にかかる時間が長く、量産には向かない方法です。
 

ワークの形状に合わせた電極が必要

すでに触れているように、型彫放電加工の原理は、電極の形状をワークに転写する、というものです。
そのため、まずワークに転写したい形状の電極を用意しなければいけません。
当然、この電極を用意するうえではコストと時間がかかります。
また、電極は摩耗するため、定期的に交換が必要となります。
 

加工機が高額

型彫放電加工は、高周波発生装置や制御装置など、高度な技術を必要とします。
そのため、加工機自体が高額です。
また、先ほど触れた電極もそうですが、加工液も消耗品となるため、総合的にコストがやや高めとなります。

型彫放電加工の用途

型彫放電加工は、導電性のある材料に、電極を近づけて高電圧をかけることで、放電現象を利用して微細な加工を行う技術です。
そのため、非常に精度の高い加工が可能で、また複雑な形状の加工も可能です。

上記の特徴から、代表的な用途としては自動車や家電製品などの部品の金型の製造があげられます。
また、スマートフォンなどの小型部品から、航空機やロケットなどの大型部品の製造においても、型彫放電加工は用いられます。

その他、通常では行えないような精密な穴や深穴の加工、半導体や医療機器といった分野においても、型彫放電加工は用いられます。

ワイヤーカットとの違い

放電加工の代表的な方法としては、ワイヤーカットもあげられます。
ここでは、型彫放電加工とそんなワイヤーカットの違いについて解説します。

型彫放電加工は、ワークに電極を近づけて高電圧をかけることで、放電現象を利用して微細な加工を行うという方法です。
これにより、電極の形状をワークに転写でき、複雑な形状の加工を可能とします。

一方ワイヤーカットは、原理は同じですが、糸鋸のように上下に繋がったワイヤーを電極とします。
このワイヤーは、材料はタングステンや銅などで型彫放電加工の電極と同じですが、直径0.1mm~0.3mm程度と非常に細いです。
ワイヤーカットは、そんな電極がワークを貫通することで、加工が行われます。

なお、この点が型彫放電加工とワイヤーカットの大きな違いです。
つまり、型彫放電加工は面で転写、ワイヤーカットは線で切断といったイメージになります。

そのため、型彫放電加工では底のある形状、つまりポケット形状での加工も可能で、電極に応じて非常に自由度が高い方法となります。

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