熱処理とは?種類ごとの効果・方法と設備について解説!
熱処理とは読んで字のごとく「熱を加えた処理方法」となりますが、その用途は幅広く、皆さんのご家庭で「火を使った調理」も言ってみれば熱処理となります。
「今日のおかずは熱処理したお魚よ」というお母さんの一言はありませんが「煮る、焼く、蒸す」など、日常的に熱処理のお世話になっていると言えます。
食品の殺菌にも熱処理が使われていて、牛乳やレトルト食品のパッケージには「高温殺菌、低温殺菌」などと記載があり、店頭に並ぶ前にメーカーで熱処理をして「殺菌をした安全な状態」で消費者へ届けられます。
このような日常にある「熱を加えた処理方法」は熱処理と呼ばれることはなく、熱処理と呼ばれるおもな方法としては「金属への熱処理」が挙げられます。
ここでは金属への熱処理について基本的な知識をご紹介したいと思います。
目次
熱処理の基礎知識・熱処理とは何か
結論、熱処理とは金属の「筋トレ」と言えます。
- 熱処理とは、日本金属熱処理工業会で「赤めて冷ますこと」と記載されており、金属材料に加熱と冷却を加えて形を変えることなく性質を向上させる加工技術と説明されています。また変化させる性質については、強さ、硬さ、粘り、耐衝撃性、耐摩耗性、耐腐食性、腐食性、被削性、冷間加工性などを指し、切断や塑性加工のような金属加工の一類に分類されます。
※引用:ゼロから学ぶ熱処理の基本 熱処理入門 (株式会社キーエンス)
ここで熱処理を「金属の筋トレ」で例えた理由をお伝えします。
何もしない筋肉は脂肪と筋肉が入り交じり、グッと力を入れてもあまり固くなりませんが、トレーニングを行った筋肉は固くなり脂肪はほんの少しになります。
金属でも同じことが言えます。
熱処理をしていない金属を「生材(なまざい)」と言いますが、生材ですと柔らかいので加工がしやすく好きな形に様々な方法で成形することができます。
ただし、柔らかいままですと製品の形が維持できず、小さな力でも形が崩れてしまうので、せっかく加工した形が台無しとなりますよね。
そこで熱処理が登場するわけです。
成形しやすい生材を熱処理によって柔らかい状態から固い性質に変えることができます。
熱処理というトレーニングを行うことで「固さ」を得て、その製品に必要な性質となるわけです。
熱処理の基礎知識・熱処理の種類と用途
では熱処理にはどのような種類があるのでしょうか。
金属材質によって800℃であったり、500℃であったりそれぞれ「熱処理温度」は違いますが、材料を熱して一定時間その温度を保たせる方法を「焼き入れ」と言います。
のちほど紹介いたしますが、様々な方法で製品に熱を加え焼き入れをします。
熱を加える熱処理温度については日本工業規格「JIS規格」に規定されており、鉄鋼では「JIS B6913:1999」の設定温度で焼き入れを行います。
800℃以上の高温で熱して焼き入れを行った後は、その製品を冷やす必要があります。
冒頭でお伝えしましたが「赤めて冷ます」方法が熱処理なので、焼き入れの後の冷やす方法でそれぞれ呼び名が変わってきます。
このグラフのように、3つの呼び名があります。
- ①焼き入れ後、急冷する ⇒ 「焼入れ+焼き戻し」※
- ②焼き入れ後、空気で冷やす ⇒ 「焼きなまし」
- ③焼き入れ後、炉内で冷やす ⇒ 「焼きならし」
※焼き戻しとは、焼き入れ後急冷して再度規定された温度で熱することを言います。
焼き入れと焼き戻し、焼きなまし、焼きならしはセットで行うことが多く、素材の性質に応じた処理方法を選択します。
焼き入れのみですと「硬さは十分ですが粘り(弾性)が無いのでもろい」状態となり、製品の性質としては「中途半端」な状態となってしまいます。
「焼き戻し」は製品に粘りを持たせる性質に仕上げることを言います。
生材で成型して、焼き入れで硬くして、焼き戻して粘りを出すことでその製品の「ありたい姿」にさせることができるのです。
「焼きなまし」は焼き入れ後、炉内で炉の温度が下がると同時に製品も冷却される方法で、焼き戻しほど「硬さを求めず」加工しやすいようにやわらかくする性質に仕上げます。
鉄鋼の焼きならしと焼きなましの設定温度については、JIS規格の「JIS B6911:1999」に設定されていて、焼き入れよりも低温(200~400℃程度)での熱処理となります。
「焼きならし」は「応力除去」とも呼ばれ、切削加工やプレス加工で製品に残った残留応力を除去する役割があります。
焼き入れ後、炉外に出して空気で冷却する方法をとります。
熱処理の基礎知識・熱処理の方法と設備
次に熱処理の方法はどのようにして行うのでしょうか。
大きくは「2つ」に分かれます。
「焼き入れのみ」と「焼き入れから焼きなまし」「焼き入れから焼きならし」の場合とがあります。
焼き入れのみの場合は、素材によってさらに方法が分かれますが、ここでは鉄鋼の熱処理方法について紹介したいと思います。
熱処理方法を紹介する前に、鉄鋼の熱処理を行う上で「酸化」という問題が出てきます。
鉄鋼は熱を加えると空気に触れて表面に酸化膜が発生し、製品品質に影響を及ぼす可能性があります。
その酸化膜を作らないよう「空気と触れないようにする」ことが、焼き入れの重要な方法になります。
雰囲気炉
雰囲気炉は、焼き入れ時に空気に触れて酸化膜を作らないように、炉内に「雰囲気ガス」を入れて空気を遮断し、その雰囲気ガスを加熱して製品を熱処理する方式になります。
焼き入れ後は炉外で空気に触れてしまうので急いで冷却する必要があるため、数秒後には「焼き入れ油」に製品を投入して急冷できるようなタイプのものもあります。
雰囲気ガスには、アルゴンガスやヘリウムガスなどの「不活性ガス」、窒素ガスや水素ガスなどの「中性ガス」がおもに使われます。
ただし、完全に空気を遮断することができないので、表面上に酸化物や酸化膜が形成されてしまう場合があります。
焼き入れ油での急冷となるため冷却ムラが若干発生して、製品品質に影響が出る場合も考えられます。
真空炉
真空炉は、炉内の空気を雰囲気ガスで追い出し、完全に真空にした状態で熱処理をする設備のことを言います。
冷却も雰囲気ガスで行われるため、炉内に製品を投入してから動くことがなく、製品のゆがみが最小限に抑えられるメリットがあります。
ただし、真空設備には大きなコストがかかり、真空にするのには時間がかかり、生産タクトが長くなってしまうことはデメリットと言えるでしょう。
連続炉
連続炉は、焼き入れ⇒冷却⇒焼き戻しを「連続」して処理が行える設備を言います。
ベルトコンベヤーで製品を一定速度で「焼き入れ炉」「冷却装置」「焼き戻し炉」の各ステージを移動させます。
連続して熱処理が行えるので、同じ製品を大量に処理する場合に向いています。
ただし、連続炉は変化させる性質の均一性や素材の寸法精度「ゆがみやひずみ」を嫌う製品には不向きではないかと思います。
バッチ式熱処理炉
バッチ式熱処理炉は、加熱する炉内へ製品を都度入れ替える方法を言います。
卓上の加熱炉、真空炉などがバッチ式の熱処理炉になります。
設備がコンパクトにできるので、小スペースでの多種少量生産に向いています。
鉄鋼の熱処理に必要な高温に加熱して焼き入れをするような場合には不向きですが、アルミ素材や金属以外の熱処理(陶器、七宝焼き等)にはよく使われています。
そのほか、高周波焼入れ炉、浸炭焼入れ炉、窒化処理炉などは特殊な熱処理方法となります。
熱処理の基礎知識・記事のまとめ
最後にこの記事のまとめをさせていただきます。
- 熱処理は「金属に熱を加えて、冷まして性質を変える」方法
- 熱処理には「焼き入れ、焼き戻し、焼きなまし、焼きならし」の4種類がある
- 素材によって熱を加える温度が違い、JIS規格で決められている
- 鉄鋼の熱処理には「酸化」が大敵なので「雰囲気ガス」で酸化防止
- 熱処理後の冷却方法は「急冷、空冷、炉冷」の3種類がある
- 熱処理方法によって様々な設備があり、素材の大きさ、生産量で選定する
熱処理は、素材の大きさや処理をする数量に応じて「最適な熱処理方法と設備」を選定する必要があります。
熱処理後の素材に求められている「寸法精度、外観状態」も考慮しなくてはなりませんが、熱処理の基本は「焼き入れ、焼き戻し、焼きなまし、焼きならし」の4つのみなので、素材に対して「変えたい性質」と「JIS規格にある設定温度」が分かれば、必然と熱処理方法が層別されます。
ここまでの基礎知識で「この素材はこの熱処理が良い」がうまく設定できると思いますので、ぜひ活用してみてください。
なお、熱処理以外にも金属加工の種類は多くあります。
そんな金属加工全般については、以下の記事にまとめました。