製造業における就業者の推移と人材育成・確保について(ものづくり白書2023)
経済産業省、厚生労働省、文部科学省が2023年6月2日、ものづくり産業に関して取りまとめた、2023年版ものづくり白書を公開しました。
この記事ではそんなものづくり白書の第2章から、就業動向と人材確保・育成について取りまとめた部分にフォーカスを当てて見ていきます。
目次
雇用と就業者数の動向
製造業の就業者数はコロナの影響を受けましたが、2020年から2022年はほぼ横ばいとなっています。
- 2020年:1,068万人
- 2021年:1,045万人
- 2022年:1,044万人
若年層は2012年以降横ばいになっており、コロナ禍の影響はほとんどありません。
中小企業に目を向けると、2020年にはコロナ禍の影響で製造業の従業員数は過剰になりましたが、その後不足に転じて2022年には前の水準に回復し、全産業平均と同等となっています。
年齢別の就業者
先ほど触れたデータで年齢別の就業者を見てみると、34歳以下は2002年から2010年にかけては減少をたどっていましたが、2012年から2022年までほぼ横ばいとなっており、若年層の就業者割合は変わりません。
2021年 | 2022年 | |
就業者数 | 263万人 | 255万人 |
就業者割合 | 25.2% | 24.4% |
65歳以上の高齢者の就業者数の割合は全産業では2019年まで増加傾向ですが、製造業を見てみると2017年から2022年まで横ばいになっています。
製造業の65歳以上就業者数は2019年から減少傾向です。
男女比
男女比では、全産業の女性就業者数の割合は増加傾向にありますが、製造業は2002年に比べると減少しています。
2009年から横ばいになっていますが、増える傾向はないといえます。
製造業に女性の就業者を増やしていくための施策が必要です。
ものづくり人材育成について
次に、ものづくり産業における人材育成について見てみましょう。
全産業で、正社員に対してOJTを実施した企業の割合は、2021年は60.6%と2019年から少し減少傾向です。
製造業で正社員に対してOJTを実施した企業の割合は、2021年は59.1%とこちらも2019年から減少傾向になっています。
正社員以外のOJT実施率を見ると、全産業が25.2%、製造業が21.1%と正社員と比べると低い数値となっています。
正社員に対してOFF-JTを実施した企業は全産業で2021年は70.4%、製造業で69.1%と産業間での差はあまりありません。
正社員以外でOFF-JTを実施した企業は全産業で2021年は29.8%、製造業で23.7%と製造業は低い傾向にあります。
OFF-JT実施割合は、正社員、正社員以外共に2019年から減少傾向です。
製造業従業員の能力開発
では反対に、従事者の自己啓発を行った割合について見てみましょう。
全産業における自己啓発を行った正社員の割合は2021年で44.6%、製造業における自己啓発を行った正社員の割合は2021年で42.7%となっており、産業間の差はあまりありません。
正社員以外の数値を見てみると、全産業で自己啓発を行った割合が2021年で20.4%、製造業で22.3%となっており、大きな差はありませんが、製造業の数値が上回っています。
共に2019年から増加傾向にあり、仕事に対して成長をしていく意欲が高まっているようです。
製造業における能力開発や人材育成に関する問題点の内訳を見てみると、人材が不足していることや育成にかける時間がないなど、問題点が多いことが見受けられます。
製造業のデジタル化について
後述で触れていますが、製造業における人材に関しては、デジタル化がポイントと言えます。
そこでここでは、デジタル技術の導入割合について見ていきます。
ものづくり企業におけるデジタル活用は増加傾向にあります。
デジタル技術の活用に向けたものづくり人材確保の取組としては、「自社の 既存の人材に対してデジタル技術に関連した研修・教育訓練を行う」が最も多いです。
次にデジタル技術に精通している人材を中途採用する企業が入っており、デジタル技術を取得することは重要といえます。
デジタル化が難しい企業は外注にて補う選択も多いです。
デジタル活用している企業は活用していない企業に比べると、採用・人材育成の強化や賃金などの処遇の改善を積極的に行っています。
デジタル技術を活用できていない企業における活用できない理由は、デジタル技術におけるノウハウがない、導入・活用できる人材がいないという理由が上位になっており、デジタル活用ができる人材が不足している原因が大きいです。
デジタルに対応した人材の確保と育成
デジタルに対応できる人材の確保と育成は、企業の成長にかかせない施策です。
ものづくり白書では、以下のような事例が紹介されています。
自社の従業員に向けて、専門性を高める教育訓練を実施し、身に着けた能力に対して賃金を改善することにより、デジタルを得意とする若い従業員の活躍もできるようになりました。
他の実例では、現場と経営層との橋渡しをデジタル活用で実施した企業もあります。
デジタル技術導入により安定的な稼働が可能となり、従業員のデジタルに対する意識も高まりました。
デジタル活用においては、経営層が積極的に理解していくことが重要と言えるでしょう。
製造業の人材確保の施策
製造業は人材を確保するために、どのような施策をしているのか見てみましょう。
製造業は専門性が高い産業になっているため、人材確保には工夫が必要です。
具体的には、職業訓練校や技能競技大会の実施をするといったことがあげられます。
公的職業訓練校
公的職業訓練校とは、国や都道府県に設置される公共職業能力開発施設です。
他にも、民間による教育訓練機関も含まれます。
2022年12月より、民間教育訓練機関による離職者向けの職業訓練において、デジタル分野のコース設定を促進しているなど、ここでも製造業にとってデジタル人材は重要であることがうかがえます。
また、生産性向上人材育成支援センターによる中小企業の生産性向上に向けた人材育成支援も実施しており、これは全国87ヵ所に施設が設置されています。
中小企業等からの「デジタル人材育成の悩み」等の相談への対応や、DXに対応した訓練が拡充されました。
企業に向けた取り組みも行っており、雇用する労働者に対して職業訓練を計画に沿って実施した事業主に「人材開発支援助成金」を支給しています。
このように、職業訓練校の他にも人材を確保するための施策はさまざまです。
技能競技大会の実施
製造業の人材確保の施策としては、技能競技大会の実施もあります。
技能五輪国際大会、技能五輪全国大会、全国障害者技能競技大会などが代表的な技能競技大会です。
大会を通じて、自己成長と仕事に対する意識が変わります。
大会の他に、ものづくりマイスターという制度も設けており、ものづくり分野で優れた技能等を有する熟練技能者を「ものづくりマイスター」として認定し、企業等に派遣して若年技能者等に実技指導を実施しています。
まとめ
ものづくり産業全体の就業者数は大きく変動していないものの、女性就業者が少ないことやデジタル人材が少ないという問題があります。
人材確保や育成について行政や民間での取り組みも行われており、利用することで改善可能です。
とくに、デジタル活用は業務改善や人材確保に大きな影響を見いだせる可能性があります。
企業の責任者や経営陣の人は、積極的にデジタル活用を考えていくのがよいでしょう。
※参考:2023年版ものづくり白書