製造業における原材料・エネルギー価格高騰による価格転嫁|現状~政府の取組(ものづくり白書2023)

  • 投稿日:2023年8月2日(水曜日)
製造業における原材料・エネルギー価格高騰による価格転嫁|現状~政府の取組(ものづくり白書2023)

製造業、特に中小企業の業績は2019年に新型コロナウィルス感染拡大により、従業員が働けなくなり操業停止、臨時休業等を余儀なくされた企業が多く、収益面で非常に厳しい状況が続きました。
2021年からコロナ禍も落ち着き始め、少しずつ業績を回復している状況ではありますが、新たな問題点が発生しています。

それは、「原材料の高騰」と「エネルギー価格の高騰」です。

コロナ禍でダメージを受けた中小企業が、さらに追い打ちをかけられるように製造コストの面で厳しい状況に立たされています。
そこで企業が実施したのが、「価格転嫁」です。

ここでは「価格転嫁とは何か」から、現在の企業が抱える問題点、価格転嫁の実施状況、政府の取り組みなどを、「ものづくり白書2023」から詳しく説明したいと思います。

製造業の価格転嫁とは何か

製造業の価格転嫁とは、「販売先に対する値上げ申請、消費者価格の値上げ」のことを言います。
最近ニュースでよく報道されている「食料品の値上げ」ですが、これは消費者に直結する出来事なので一番認知されている価格転嫁ではないでしょうか。

製造業の世界では1つの製品を作るのに何十、何百もの部品を使っています。
部品メーカーは販売元への価格転嫁を申請し、販売元は消費者へ価格転嫁をする構図があり、製品の値上げが行われている仕組みになります。

コロナ禍の影響で企業も過剰な生産を控え、市場規模が縮小し、それに伴って原材料やエネルギー価格が高騰する「負の連鎖」が起きていて、ものづくりが今までの価格では生産できなくなる状況が発生しています。

製造業の世界では顧客からの「コストダウン要請」はあっても、「コストアップ要請」は製造仕様変更などの「客先都合」でしか認められない「異例」な事とされてきました。
ただし、今回は世界全体で起きている「価格高騰」なので、「価格転嫁しないと企業が存続できない」状況まで達していて、販売者または消費者からの値上げ要請に「やむなく」実施する形になっています。

各国政府も企業活動を後押しするうえで必要な対策を打っており、価格転嫁の推進は65%程度進んでいると言われています。

価格転嫁の状況

企業が答えた「事業に影響した企業行動」とは

ものづくり白書の「我が国製造業の足下の状況」における「直近3年で最も事業に影響した企業行動は」とのアンケート調査では、「価格転嫁(販売先に対する値上げ申請、消費者価格の値上げ)」が最も多く、約4割を占めています。

直近3年で最も事業に影響した企業行動

続いて「投資(有形固定資産)」で16.1%
3番目に「人材確保」の12.4%
4番目に「コスト削減(人員減や事業所閉鎖等)」の7.3%
5番目に「事業転換または新事業への参入」の5.6%
6番目に「賃上げ(従業員への還元)」の5.6%
となっています。

本来であれば「価格転嫁」は企業行動に入るはずもなく、資産運用や人材確保、事業転換などに労力を使うところですが、「価格転嫁」を遂行しないと企業が存続できないほど危機的な状況であることを、この数字が表しているものと思われます。

企業の価格転嫁の状況

では、その価格転嫁は、どの程度の企業が進められているのでしょうか。

価格転嫁を行っている企業のアンケート調査では、50~60%は価格転嫁できたと答える企業が最多で、16.9%でした。

価格高騰分のうち価格転嫁できている割合

価格転嫁が70~100%出来ていると回答している企業が約37.6%で、先ほどの最多帯で50~60%となっていますので、半分程度達成している企業の割合は50%以上となり、価格転嫁が社会的な慣例として認知されているととらえることができます。

一方で、価格転嫁できていない企業はどの程度あるのでしょうか。
同アンケート調査で、価格転嫁が0~20%しかできていない企業が23.5%もあることが結果として出ています。

この数字の背景には、販売元が価格交渉に抵抗を示し受け入れてくれない場合や、発注停止あるいは契約を打ち切る等の契約を理由に価格転嫁に応じない場合が考えられます。

日本企業のDX推進実態調査2022 のアンケート調査では、製造業における価格転嫁率は、産業別にみると、食料品製造業(66.7%)や電気機械器具製造業(65.9%)が高く、一方で繊維工業(31.8%)や化学工業(36.4%)が低い傾向にあります。
これは、食料品や電気機械器具は需要が安定しており、価格変動に対する消費者の受容度が高いためと考えられます。
一方で、繊維や化学製品は国際競争が激しく、価格を上げる余地が少ないためと推測されます。

※参考:日本企業のDX推進実態調査2022(PwC Japanグループ)

価格転嫁を促す政府の動き

中小企業は取引単価の収益幅が少ないため、原材料やエネルギー価格高騰に対応できない状況が続くと、企業活動の存続が危ぶまれて倒産の可能性も否定できません。
このような中小企業を救済するため、政府も動きを強めています。

ものづくり白書によると、価格転嫁の促進のために9月と3月を「価格交渉促進月間」と設定し価格転嫁率の公表を、そして価格交渉や転嫁の状況が芳しくない親事業者に対する指導・助言を実施して、下請け企業の交渉力向上支援などの取り組みを実施しています。
そのほか、下請けGメン(親事業者へ抜き打ち訪問し下請け企業への価格転嫁促進を依頼する担当者のこと)による親事業者の実態情報を活用した、下請け企業が自主的に価格転嫁の交渉に入るための行動計画も策定しています。

前節の通り、価格転嫁は業界ごとに停滞しているところもあり、その企業体質や「暗黙のルール」などを紐解き、改善プロセスを体系化することで粘り強く価格転嫁しやすい取引環境を整備しています。

中小企業庁が実施した、独占禁止法上の「優越的地位の濫用(らんよう)」に関する緊急調査を実施したところ、約4030社に独占禁止法Q&Aに該当する行為が認められ、注意喚起文書を送付しています。
合わせて、受注者からの値上げ要請有無にかかわらず、多数の取引先との協議を経ない取引価格を据え置きしている事業者名の公表もしています。

賃上げに関しては、2023年3月に政府と経済界、労働組合代表による「政労使会議」が約8年ぶりに開催されました。
中小企業の賃上げに向けて、大きな一歩になったのは間違いないと思われます。
中小企業のより一層の賃上げを促進するために各種補助金において、給与支給総額年率6%以上の賃上げを行った企業にインセンティブ処置を拡充しています。

政府の後押しの影響度は高く、経済界を大きく巻き込んでの賃上げとなっているので、中小企業の経営者も取り組みやすい状況となっていると言えます。

まとめ

最後にポイントをまとめました。

◆価格転嫁とは「販売先に対する値上げ申請、消費者価格の値上げ」のこと
◆価格転嫁の背景は、社会情勢等の「負の連鎖」で、企業自体では抱えきれない
◆企業も無視できず約65%の価格転嫁率が報告されている。
◆価格転嫁は推進されているが、実感している割合は約4割
◆価格転嫁が進んでいない業種もあり、偏りがみられる
◆価格転嫁には政府も中小企業庁を中心に実態把握や補助金などの取り組みを推進

※参考:ものづくり白書2023(経済産業省)

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