ステンレス加工が難しい6つの理由&加工方法・ステンレス鋼の種類と特徴を解説

  • 投稿日:2023年8月21日(月曜日)
ステンレス加工が難しい6つの理由&加工方法・ステンレス鋼の種類と特徴を解説

ステンレスは、硬くてサビにくいメリットを活かして幅広く使用される金属ですが、溶接やカット、曲げなどの加工が難しいデメリットもあります。
また、そもそもステンレスには5つの系統があり、種類ごとに特徴や用途も異なります。
この記事では、そんなステンレスの種類や特徴、また加工方法や加工が難しい理由、さらにはその対策などについて、詳しく解説します。

ステンレス加工とは

ステンレス加工の方法は溶接やカット、曲げなど、主に5種類あります。
硬くてサビや熱に強いステンレス鋼の特性が要求される、生活用品や各種機械部品、建築材料にいたるまで、幅広い場面で採用されている加工です。

なお、ステンレス鋼(SUS:サス)は系統により5つに分類され、さらに、多くの種類が存在します。
ステンレス鋼の加工は他の金属に比べて難しく、方法や用途、目的などに合わせて種類を選択するなど、うまく加工するには対策が必要です。

ステンレス鋼(SUS)の種類と特徴

ステンレス鋼は、サビやすい炭素鋼に、クロム(Cr)やニッケル(Ni)を加え、耐食性を高めた合金です。
国際的には「鉄を主成分として50%以上含み、炭素が1.2%以下、クロムが10.5%以上の合金鋼」と定義されています。

ちなみにステンレス鋼(stainless steel)は、読んで字のごとく「stainless=サビない」、「steel=鋼」を意味します。
また、ステンレス鋼の材料記号は「SUS(Steel Special Use Stainlessの略)」と表記されます。

ステンレス鋼(SUS)の一般的な特徴

ステンレス鋼(SUS)の一般的な特徴を下記で解説します。
 

サビにくい

クロム(Cr)がステンレス鋼の表面で酸化され「不動態皮膜」と言われる薄い皮膜を形成します。
ステンレス鋼の表面で形成された不動態皮膜が酸素を遮断することで、内部のステンレス鋼の酸化を防止し、錆びの発生を防ぎます。
このため、サビやすい屋外や水分の多い場所でも使用されています。
 

硬く強度が高い

ステンレス鋼は鉄に炭素を加えてあるので、鉄より強度が高いです。
そのため、ステンレス鋼を使用すると同じ強度であれば、鉄より薄く軽くできるメリットがあります。
 

熱に強い

ステンレス鋼の種類にもよりますが、一般的にステンレス鋼は、500℃までの高温環境下では強度の低下が少ないです。
また、さらに熱に強い種類のステンレス鋼でも、900℃以上の高温環境下で使用されることはほとんどありません。

ステンレス鋼(SUS)の5つの系統

ステンレス鋼は、鉄以外の金属などの含有量と熱処理温度により結晶の構造が大きく変化します。
そのため、ステンレス鋼は結晶構造により金属組織別に5つの系統に分類され、それぞれ物理的な性質が異なります。
各系統のステンレス鋼の特徴を把握して、用途や目的に合った系統のステンレス鋼を使用することが重要です。

ステンレス鋼(SUS)の下記の5つの系統について解説します。

  • ①マルテンサイト系ステンレス鋼
  • ②フェライト系ステンレス鋼
  • ③オーステナイト系ステンレス鋼
  • ④オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼
  • ⑤析出硬化系ステンレス鋼

 

①マルテンサイト系ステンレス鋼

マルテンサイト系ステンレス鋼とは、クロムを13%含むステンレス鋼で、13Crステンレス鋼とも呼ばれています。
焼入れや焼戻しなどの熱処理によって強度が高まります。
オーステナイト系やフェライト系より耐食性が劣り、水分の多い環境には適しません。

種類 特徴
SUS403 強度が高く、耐食性、耐熱性に優れ、ポンプやノズル、タービンブレードなどの機械部品に使用されています。
SUS410 ステンレス鋼の中では耐食性が劣りますが強度が高く、摩耗性に優れており、食器用のナイフやポンプ、シャフトなどに使用されています。
SUS420J2 炭素を多く含有し、ステンレス鋼の中では錆びやすいのがデメリットですが、焼入れや焼き戻しのような熱処理により強度や硬度が高まります。
バルブやスプリング、シャフトなどに使用されています。
SUS440C ステンレス鋼の中でも硬度が最も高いレベルに属し、それに伴って耐摩耗性などの機械的性質も優れています。
ベアリングの軸受やゲージ、金型に使用されています。

 

②フェライト系ステンレス鋼

フェライト系ステンレス鋼は、ニッケルを含まず安価で、磁性があり、耐食性や加工性、溶接性に優れています。また、焼入れなどの熱処理で硬度が高まりません。

種類 特徴
SUS430 フェライト系ステンレス鋼の代表例で、クロムの含有率が約18%です。
自動車やキッチン用品、建築資材に使用されています。

 

③オーステナイト系ステンレス鋼

オーステナイト系ステンレス鋼は、耐食性、靭性に優れ、溶接性や加工性も良好です。
磁性はありません。
また、全ステンレス使用量の約6割を占めています。

種類 特徴
SUS303 SUS304にリンや硫黄を加えているので、加工性や切削性が優れています。
SUS304より耐食性に劣り、錆びやすく、溶接性に劣るのがデメリットです。
ボルトやナットなどの機械部品に使用されています。
SUS304 オーステナイト系ステンレス鋼の代表例で、クロム18%、ニッケル8%を含んでいます。
加工しやすく、溶接性に優れています。
家庭用品から自動車部品、原子力発電部品まで幅広く使用されています。
SUS304 2B SUS304を使用して、2番目の製造工程でできたオーステナイト系ステンレス鋼に光沢(Bright)加工を施して仕上げたものです。
SUS316 クロム18%以上とニッケル12%以上、モリブデン2.5%以上を含有し、SUS304の耐食性を高めたオーステナイト系ステンレス鋼です。
塩水と触れる船舶部品や海沿いの建築資材など、耐食性が要求される環境で使用されます。
SUS316L SUS316より炭素の含有量が少なく、加工性や耐食性に優れており、溶接に向いています。
ダイヤフラムや医療用器具などに使用されています。

 

④オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼

オーステナイト系ステンレスとフェライト系ステンレスの金属組織が1:1で混ざったステンレス鋼です。
オーステナイト系より、強度が高く耐食性に優れていますが、高温で脆化が起こります。
淡水化装置や化学プラント部品に使用されています。
 

⑤析出硬化系ステンレス鋼

固溶化熱処理後に析出硬化処理を行い、強度を高めたステンレス鋼です。

種類 特徴
SUS630 SUS304と同程度の耐熱性と耐食性で、熱処理で強度と硬度を高めることができます。
タービンやシャフトに使用されます。

ステンレス加工のメリット

メンテナンス手間と時間が省ける

ステンレスはサビに強く、強度が長持ちするので、メンテナンスのコストが省けます。

熱に強い

一般に、ステンレス鋼は500℃程度の高温環境下でも高い強度を保ちます。

強度が要求される箇所でも使用できる

強度や剛性に優れるので、強度が要求される部分でも使用できます。

ステンレス加工方法

ステンレス鋼の用途によって、下記の適切な加工方法を選択する必要があります。

  • 溶接加工
  • 切断加工(カット)
  • 切削加工
  • 曲げ加工
  • 表面処理

溶接加工

複数の金属素材を溶かして、つなぎ合わせる加工方法です。
ステンレス鋼の溶接方法には、レーザー溶接、ガス溶接、被覆アーク溶接などがあります。

切断加工(カット)

ステンレス鋼を必要な形や大きさに切り取る加工方法です。

切削加工

切削加工は、マシニングセンタなどの工作機械を用いて、ステンレス鋼を削ったり、穴を開けたりする加工方法です。
一般的なステンレス鋼は切削加工が難しいので、ステンレス快削鋼を使用します。

曲げ加工

ステンレス鋼を曲げる加工方法です。
曲げた後に少しだけ元の形に戻ろうとする(スプリングバック)ので、それを考慮した曲げの角度を設定する必要があります。

表面処理

ステンレスの表面に処理を施すことで、外観が向上したり、サビにくくなったりします。
ステンレスの表面処理方法には、メッキや塗装、エッチングなどがあります。

ステンレス加工が難しい6つの理由と対策

ステンレス加工が難しい理由とその対策を、以下で表にまとめました。

ステンレス加工が難しい6つの理由 原因と対策
熱伝導率が悪い ステンレス鋼は熱伝導率が悪いので、ステンレス鋼と工具との摩擦熱の逃げ場がなく、工具に熱がたまり、工具の不具合が起こりやすくなります。
そのため、適切な加工条件の設定やクーラントの選択が必要です。
加工硬化しやすい ステンレス鋼は加工により強い力や負荷がかかると、加工硬化が起こり、硬度が高まるので、加工しにくくなります。
そのため、適切な加工条件の設定やクーラントの選択が必要です。
工具との親和性が高い ステンレス切削くずが工具にくっつきやすく、工具の一部と共に剥がれてしまったり(チッピング)、工具の刃先などに溶着して、加工精度が落ちたりします。
そのため、刃物の素材や切削くずをスムーズに逃す形状を選択し、切削油を使用します。
曲げ加工でスプリングバック対策が必要 曲げの直後に、少しだけ元の形状に戻ろうとします。
そのため、あらかじめ、戻りを考慮に入れた曲げの角度を設定します。
「溶接焼け(スケール)」が起こる 溶接時の高い温度と雰囲気で、ステンレスに溶接焼け(スケール)が起こり、不動態被膜が破壊されたり、電食の原因になったりします。
そのため、溶接焼け(スケール)を取り除き、不動態皮膜を形成する必要があります。
溶接時に割れることがある ▼マルテンサイト系ステンレス鋼の場合
溶接部が急速に冷えると、割れる。
余熱や、急に冷やさないように温度管理を適切に行う。

▼フェライト系ステンレス鋼の場合
溶接部が粗粒化し、強度が低下する。
余熱温度を150℃未満にするなどして対策する。

▼オーステナイト系ステンレス鋼の場合
溶接部分が高温割れを起こす。
低い温度で溶接を行う。

まとめ

ステンレス加工は、メンテナンスコストが低く、熱に強く、高温環境下でも高い強度を保持できるなど、他の金属に比べてメリットが多いですが、加工が困難な点がデメリットです。
この記事を読んで、ステンレスの系統や種類、ステンレス加工が難しい理由と対策などを参考にしていただければ幸いです。

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