ワイヤーカット(ワイヤー放電加工)とは|原理や加工方法・メリットやデメリット・レーザー加工との違いを解説

  • 投稿日:2023年3月29日(水曜日)
ワイヤーカット(ワイヤー放電加工)とは|原理や加工方法・メリットやデメリット・レーザー加工との違いを解説

ワイヤーに電流を流して金属を加工する、ワイヤーカット。
この記事では、そんなワイヤーカットの仕組み加工方法、また似た点の多いレーザー加工との違いなどについて解説します。

ワイヤーカットとは

ワイヤーカットとは、放電加工のひとつで、金属とワイヤー電極に放電現象を発生させ、その放電による高熱で素材を溶かして成型する加工方法です。
正式にはワイヤー放電加工という名称で、ワイヤー放電加工機により加工します。

切断加工をする方法のひとつですが、切削や研削とは違い、工具による直接加工ではありません。
電気のエネルギーを使用し溶解させるという特徴があります。
ワイヤーカットは素材への負担が少なくなっており、加工精度が非常に高いです。

【関連記事】
【放電加工】原理・メリットとデメリット|依頼や見積ならJig Matchへ
型彫放電加工の原理と用途・メリット・デメリットを解説

ワイヤーカットの仕組み

純水や油の中に材料を置いて、パルス電流の放電による高熱(6000~7000度)で材料を溶解させます。

材料と電極のスキマは約0.005mmあり、非接触です。
スキマのことを放電ギャップといいます。

電流の通ったワイヤーと材料が放電ギャップほどの距離まで接近すると絶縁破壊が発生します。
絶縁破壊とは、雷と同じ現象で電気抵抗が急激に低下して発生する現象です。
ワイヤーと材料の間で小さな雷を発生させ、溶解しています。

電極には、真鍮やタングステン、モリブデン等の細いワイヤーを使用しており、髪の毛くらい細いため、0.05mm幅ほどの加工が可能です。
加工槽には冷却装置を備え付けてあり、加工液を一定の温度に保っています。

放電加工中は、材料の周りの溶液が瞬時に気化して溶解金属の加工クズ(スラグ)が発生しては電流を切り、溶液が材料の表面のスラグを洗い流す、このサイクルを繰り返す仕組みです。

ワイヤーカットの3つの方式

ワイヤーカットの方式は、大きく3種類あります。
用途により方式を変えるのが理想ですが、自社で対応できない場合は外注するのがおすすめです。

噴流式

材料や電極に付着したスラグに加工液を噴射して冷却と除去をする方式です。

水中浸漬式に噴流ノズルがついているタイプの加工機は多いですが、噴流式の加工機は少なくなっています。
噴射することで冷却の効率が上がるため、大型の加工には噴流ノズルが用いられることが多いです。

水中浸漬式

材料と電極を純水内に置いて、加工中に発生したスラグを加工液で冷却と除去する方法です。

純水を使用するので火災の心配もなく、加工液の管理も楽というメリットがあるため、多くの加工機が水中浸漬式を採用しています。
しかし、材質によっては腐食するデメリットもあるため、加工する材質によっては油槽浸漬式が良いでしょう。

油槽浸漬式

材料と電極を油内に置き、加工中に発生したスラグを加工液で冷却と除去する方法です。

加工液のコストが高いデメリットはありますが、素材への腐食がないというメリットがあります。
加工速度は水中よりも遅いですが、加工精度は高いので高精度加工の際は油槽浸漬式が良いでしょう。

ワイヤーカットで加工できる材質

伝導体であれば超硬材でも加工が可能です。
主に、鋼やステンレス、銅、真鍮、アルミなどを加工します。

ほかに、厚み300mm以上の材料から焼入れ鋼や超硬材や箔材の切断も可能とさまざまな材質に対応可能なメリットがあります。
しかし、プラスチックやセラミックのような伝導性がないものは加工ができません。
条件にもよりますが、プラスチックなどでも伝導体を含んでいるとワイヤーカットで加工が可能です。

ワイヤーカットのワイヤーの種類

ワイヤーの種類は、黄銅・真鍮・タングステン・モリブデンなどの物があります。

黄銅や真鍮のワイヤーの太さは、φ0.10 φ0.15 φ0.20 φ0.25 φ0.30以上など多くの種類があり、太さによりかけられる電圧が違います。

細いと精度は上がりますが、電圧が弱い分加工速度は遅いです。
太いと電圧をかけられるため、速度は早いですが、精度は落ちます。

高精度ワイヤーカット加工機ですと、タングステンを使用します。
タングステンは黄銅や真鍮に比べると直径はφ0.05 φ0.03などと細いですが、高い電圧をかけられます。

ほかに合金の周りにコーティングをした特殊なワイヤーもあるので、用途によって使い分けましょう。

ワイヤーカットでできる加工方法

ワイヤーカットでは、さまざまな加工方法が可能です。
高精度を求める加工に向いているため、研削や切削で公差内に収まらない時は、ワイヤーカットが良いでしょう。

微細加工

微細なギアに用いられることが多いです。
0.05mm以下の加工も必要とする製品に向いています。
ほかの加工方法では、ここまで微細な加工は難しいです。

超精密プレス型

硬度のある素材を用いてプレス加工用の型を加工できます。
ワイヤーカットはプレスの型を加工するのに発達してきました。
プレス型を加工するのが得意分野といえます。

大型ワイヤーカット

ワイヤーカットには大型な機種もあり、高さ600mmまで対応が可能です。
精度が必要な大きい製品も加工できる強みがあります。

ダイプレート加工

金属プレス加工機や射出成型機のダイプレートの加工もできます。
金型を取り付ける下地なため、精度と耐久度が必要な製品です。

難削材加工

伝導体であれば、難削材でも加工が可能です。
材質により、加工液を使い分ける必要があるため、コストを考えると無理に自社で実施するのではなく業者へ依頼するのも良いでしょう。

六角穴

六角穴加工は主に研削機で行うことが多いです。
難削材や高精度を求める製品では、ワイヤーカットで加工するのが良いでしょう。
研削機より時間はかかりますが、加工ができる素材が多く、高精度のメリットがあります。

キー溝

キー溝加工も可能です。
研削機を使用して行うことが多い加工方法ですが、高精度に加工ができます。
卓上キー溝加工装置やブローチ研磨機がなくても加工できますが、加工速度は研削に比べると遅いです。

ほかにもさまざまな加工方法が可能ですが、一部できない加工方法もあるため、加工できない方法については注意点の項目で記述しています。

ワイヤーカットの注意点

さまざまな材質や形状に加工ができる万能なワイヤーカットですが、注意点があります。

ワイヤーカットはワイヤーが垂直方向に張っているため、水平方向の加工が難しく、底のある製品の加工はできません。

また、伝導性のある素材であれば加工が可能ですが、材質によっては純水につけて加工してしまうとサビなどが発生する恐れがあります。
コバルトワイヤーで超硬材を加工する際には、水にコバルトが溶け出してしまい加工面が腐食する可能性もあります。
油浸漬式で加工する方法もありますが、コストが掛かってしまうことや加工時間が遅くなるなどの問題も生じます。

そして、ワイヤーカットのワイヤーについて、真鍮や黄銅は安価ですが、高精細加工に用いるタングステンは高価なため、コストパフォーマンスが悪いです。

メリット・デメリットで見るレーザー加工との違い

ワイヤー放電加工と共通点が多いとして、レーザー加工があげられます。
そこで、ワイヤー放電加工とレーザー加工の違いを、メリット・デメリットを比べながら、解説します。

加工方法

レーザー加工では、集光したレーザー光により、材料を高温にし溶解させ切断、ワイヤーカットでは、ワイヤーに電流を流し材料を溶解させながら切断をします。
どちらも高温にして溶解させる方法は共通です。

しかし、使用するエネルギーには光と電気の違いがあります。

加工速度

レーザー加工は毎分700~10000mmの高速加工が可能です。
ワイヤーカットは毎分数mm程度と肉眼で確かめられないほどの速度になっています。

加工速度はレーザー加工機のほうが非常に速いです。

加工精度

レーザー加工の加工精度は0.05mm程度、ワイヤーカットでは、0.005mm程度です。
レーザー加工では、出力波形によりテーパ形状に加工されます。
ワイヤーカットでは上下にワイヤー電極が張ってあるため、垂直やテーパ形状どちらの断面にも対応可能です。

レーザー加工は高精度を必要としない量産に向いており、ワイヤーカットは高精度な製品に向いています。

板厚

レーザー加工は、最大30mm程度まで対応可能です。
ワイヤーカットでは、最大300mm程度まで対応可能なので、板厚がある製品はワイヤーカットが良いでしょう。

薄い素材はレーザー加工機、厚い素材にはワイヤーカットが向いています。

コスト

レーザー加工機は高価で2000万から1億と高額なのに対し、ワイヤーカット加工は1000万から5000万とコストパフォーマンスがよく見えます。

導入する際には、用途に合っているか慎重に選びましょう。

まとめ

この記事では、ワイヤーカットについて解説しました。
ワイヤーカットは、正式にはワイヤー放電加工と呼ばれ、さまざまな加工方法に対応することが可能です。
しかし、デメリットもあるため特徴を理解し、使い分けることが大切となります。
厚みのあるものや精度を求めるものはワイヤーカットを、板金のような薄いものや精度を求めないものはレーザー加工機を、のような量産向きの加工機が良いでしょう。
ワイヤー放電加工機の中でも種類があり、得意不得意な加工方法があります。

無料会員登録 TOP