加工硬化とは?メカニズムから見る原因と対策・材料別の加工硬化指数
加工硬化とは、力を加えられた金属が、その名の通り硬くなる現象のことです。
ほとんどの金属に起こる現象で、加工を行う上では必ず関係してきます。
この記事では、そんな金属の加工硬化について解説します。
目次
加工硬化とは
加工硬化とは、力を加えられた金属が、硬くなる現象のことです。
ひずみ硬化とも呼ばれます。
冷間加工(圧延など)を行い、塑性変形させることで起こります。
金属を硬くすることができる反面、脆くなるため、割れや破断の原因になります。
身近な例としてよく針金があげられ、何度も折り曲げているといずれ折れてしまいますが、これが金属の加工硬化です。
なお、加工硬化はほとんどの金属で起こりますが、材料によって度合いは異なります。
しかし、中でも加工硬化が大きい材料としては、ステンレスがあげられます。
加工硬化のメカニズム
加工硬化が起こるメカニズムは、金属の構造にあります。
そもそも金属は、原子が格子状に並ぶ構成となっています。
ここに力を加えると、あるポイントまでは弾性により元に戻りますが、このポイントを超えると塑性により元に戻らなくなります。
このとき、金属を構成する原子の格子状の配列に乱れが生じますが、これが加工硬化の原因です。
もともと金属を構成する原子は、規則性を持って格子状に並んでいますが、そうでない格子欠陥があります。
この部分は転位と呼ばれ、これが移動して伝播していくことで、塑性変形します。
しかし、塑性変形によってひずみが生じて、新たに転位が生まれます。
このように転位の数が増えると、それぞれが絡み合い、徐々に移動することができなくなり、これにより加工硬化が起こります。
加工硬化を元に戻す焼きなまし
加工硬化が起こると、金属を硬くすることができますが、その反面、脆くなるため、割れや破断の原因になります。
そのため、これ以上に塑性変形させる上では、金属を柔らかくしなければいけません。
これを可能にするために行うのが、焼きなましと呼ばれる熱処理です。
焼きなましを行うことで、以下のプロセスを経ます。
- ①回復:ひずみや転位が消滅したり再配列したりする
- ②再結晶:原子で構成される結晶粒が新しく生まれる
- ③粒成長:新しく生まれた結晶が成長する
このように、焼きなましを行うことで金属の構造が変化して、簡単に言うと加工硬化の原因を取り除くことができます。
これにより、金属の柔らかさを、ほとんど加工硬化を起こす前の元の状態に戻すことが可能です。
切削加工における加工硬化の対策
ここまでは、塑性変形することで金属が加工硬化を起こすことについて解説してきました。
しかし、金属の加工硬化は、切削加工においても起こります。
ここでは、そんな場合における対策を解説します。
工具選定
対策としてまずあげられるのが、工具選定です。
切削加工においては、抵抗が大きければ大きいほど、加工硬化を起こしやすくなります。
そのため、抵抗が小さくなるように切れ味のよい工具を選定することが大切です。
また、切れ刃形状や当てる角度などを考慮することもポイントとなります。
切削条件
切削条件を考慮することも、対策としてあげられます。
先ほども触れたように、切削加工では抵抗によって加工硬化を起こす恐れがあります。
そのため、切削工具と材料が擦れないようなツールパスを設定することが大切です。
また、加工硬化は切削加工を行う際の温度が高くなることによっても起こるため、クーラントを使用して、なおかつ一定に冷却することもポイントとなります。
加工硬化指数で見る加工硬化しやすい材料・しにくい材料
加工硬化はほとんどの金属で起こりますが、材料によって度合いは異なります。
なお、加工硬化が起こりやすいか起こりにくいかは、材料ごとに、加工硬化指数n値で決まります。
代表的な金属の材料ごとの加工硬化指数n値を以下にまとめました。
なお、加工硬化指数n値は0~1で表記され、1に近いほど加工硬化が起こりやすいことを意味します。
材料 | 加工硬化指数n値 |
軟鋼 | 0.21 |
SUS304 | 0.42 |
SUS430 | 0.23 |
SUS301 | 0.56 |
銅O材 | 0.50 |
銅1/2H材 | 0.05 |
黄銅2種O材 | 0.55 |
黄銅2種1/2H材 | 0.11 |
アルミニウム合金(A1100-O) | 0.26 |
アルミニウム合金(A1100-H24) | 0.09 |
チタン | 0.14 |
※Oの表記は焼きなましが行われた材料、HやH24の表記はすでに加工硬化が起こっている材料を意味します。
上記から、ステンレスや銅、黄銅などは加工硬化が起こりやすいことがわかります。
一方、チタンなどは加工硬化が起こりにくいと言えます。
まとめ
この記事では、金属の加工硬化について解説してきました。
金属加工においては、必須の知識とも言えますので、ぜひ参考にしていただければ幸いです。
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